刺激しあいながら、ますます進化と深化を続ける
デパ地下惣菜

　一時の賑わいにやや陰りが見え始めていたデパ地下惣菜が、再び活気を見せています。差別化と話題性を得るために、こぞって地方の有名店、老舗の名店を勧誘し、さしずめ“惣菜物産展”と化していたデパ地下。新規性に乏しくなり、“珍しさ”という魅力が半減したからなのか、最近、景気のいい話題もとんと聞かれなくなっていました。が、しばらくぶりにデパ地下を歩いてみて、またまた進化した売り場を見つけました。
　 場所は、渋谷の東急百貨店。「フードショー」のある東横店が有名な百貨店です。一時は、次々と新しい店が入って“惣菜バトル”が繰り広げられていましたから、皆さんの中には、視察に立ち寄った方もたくさんいらっしゃるでしょう。でも今回話題にしたいのは、同じ東横店でも「のれん街」の方。「フードショー」に押されて、“・・・・おみやげの名店街”の印象が強くなっていた「東横のれん街」。その惣菜売り場に、クオリティの高い商品が並び、ちょっと高くてもおいしいものが食べたい―。そんなときに寄って行きたい場所になっています。

百貨店との共同商品開発で生まれた「おいしい鮭弁当」

　牽引しているのは、和食の惣菜店。特に注目は、「藤兵衛」の魚弁当です。魚料理が専門の店らしく、ふっくらとしたサケの塩焼きや香り豊かな西京焼きなど、おいしそうに仕上げた魚料理の存在感が、他店の魚弁当を圧倒しています。「フードショー」には、同系列の店「味の浜藤」が出店していて、こちらも人気のようです。とは言え、出店当初から売れていたわけではないようです。



　 「フードショー」自体も例に漏れず、一昨年来、売り上げが低迷していました。昨年から改装を進めるとともに、出店者との共同商品開発を強化して、売り上げアップを図っています。その代表格が「味の浜藤」です。売れる弁当なら1日100個は売れるという「フードショー」において、同店の弁当は、最も売れる商品でも20個程度と低迷していたそうです。そこで、東急百貨店のスタッフや外部のコンサルティングの協力を得たところ、１日に50個売れる商品が開発できたと言います。それが、写真の「おいしい鮭弁当」です。ふっくらとしたサケ、商品名が書かれた和紙の帯など、料理、パッケージ、882円という価格のバランスが絶妙で、値ごろ感を感じさせます。

老舗料亭が大きな刺激と勉強の機会を

　「フードショー」が多種多様な店が並ぶ市場的な賑わいが特徴なら、「のれん街」はやはり、・・・のれんのある店がしのぎ鎬を削る名店街の印象があります。京都の料亭「菊の井」や金沢の料亭旅館「浅田屋」が東横のれん街に登場したことで、この場のグレード感がぐんと上がり、かつ、ニューヨークから上陸したデリカテッセン「DEAN&DULUCA」が華を添えて、ちょっとうらぶれた雰囲気だった「のれん街」に高級感のある活気が戻ってきたように思えます。これらの店は、場の雰囲気を変えただけでなく、他の出店者にも大きな刺激と勉強の機会を与えたことは、容易に想像がつきます。

市場から学ぶ姿勢があれば進化は続く

　包材の選び方、美しい盛り付けの手法、彩りとバランスのセンス、おいしそうに見せるディスプレイの演出。さまざまな点において、和弁当を提供する各店のレベルが上がっているように思います。惣菜だけではありません。刺し身や寿司などの生鮮加工商品も、スーパーのそれとは一線を画す、高級感のある見せ方をしています。
　デパ地下に出店すれば売れる―。そんな妄想が現実だったときもありました。出店者のネームバリュー頼みの時代もありました。そして今は、出店者同士が刺激しあい、また百貨店と協力することで、よりよい商品作りに取り組む時期に入りました。広く市場を見て学び、いいところは取り入れ、真似をして、オリジナリティに結び付ける―。その姿勢がある限り、デパ地下はさまざまなカタチに進化し、また深化していくものと考えます。